仲の良かった兄弟が…遺産分割で家族間のトラブルを避けるために

 遺産相続をキッカケに、いままで仲の良かった家族や兄弟姉妹が、骨肉の争いを繰り広げる……そんなことはテレビドラマの中だけの話だと思っていませんか。

 遺産分割をめぐる事件の裁判(家事調停・審判)は、年間1万2766件(令和元年)となっており、平成25年以降多少の波はあるものの増加傾向です。

 もし、あなたの大切なご家族たちがお金を巡って揉め事に発展してしまったら

 そうならないために、今のうちから何をすべきでしょうか?

出典:司法統計年報家事事件編(令和元年度)等よりグラフ作成

国は税金を取りに来ている

 揉め事になるほどの財産はないよ…と思われるかもしれません。

 さらに法務省の司法統計年報(家事事件編)から遺産分割事件となった相続の遺産価額(※円グラフ参照)を見ると「1,000万円超5,000万円以下(青)」「1000万以下(赤)」の合計、つまり「5,000万円以下のケースが約8割弱を占めている」ことが確認できます。

 さらに、平成27年1月1日に相続税の基礎控除が縮小されたことをご存知でしょうか?

出典:司法統計年報家事事件編(令和元年度)

相続税の基本的な考え方

 相続税は相続人(=相続される人)が、被相続人(=相続する人)から財産を受け継いだ時にかかる税金です。
相続税には3,000万円+(600万円×法定相続人の数)が基礎控除として、相続財産から差し引かれ、相続財産が基礎控除額以下であれば相続税は課税されません。

 例えば、ご主人が亡くなったとき、奥様とお子様が2人いるご家庭では、法定相続人の数は3人です。そこで、3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円が基礎控除となり、相続財産がこの額以下であれば課税されず、この額以上であれば課税されることになります。

 上記相続財産の額が基礎控除額を超えると相続税を支払う必要がありますが、支払う相続税を減らすために財産の評価額を下げることを相続税対策と呼びます。

 実は基礎控除額は平成27年以前は5,000万円×(法定相続人の数×1,000万円)でした。それが3,000万円×(法定相続人の数×600万円)に減っています。

 実際には国税庁によると、相続税の課税対象者は全体の全体の8%程度しかいませんが、それより以前から約2~4%程度増えたといわれています。4%というと数百万人以上の人に新たに相続税がかかることになります。多数の土地を所有している地主や資産家だけではなく、一般家庭の持家のみでも相続税がかかることが想定されます。

 消費税が増税になるたびに世論が大きく反発しますが、国(政府)の借金が2021年時点で1212兆超とえ言われる中、実際は消費税以外にも水面下で国は税金を取りに来ているのです。

 以前の改正は平成27年でしたが、今後も増税ターゲットにされてもおかしくありません

大切なご家族を
「争族」にしないために

 残されたご家族が相続税を支払わならない可能性、または相続税の対象外であったとしてもご生前のうちに、遺言を残しておいたり、相続対策をしておくことはとても大切です。

 以下では、遺産分割や相続の際にトラブルになりやすい事例を紹介しておきます。

相続財産に占める不動産の割合が多い

CASE 1

 現預金や上場株式、投資信託のような換金しやすい金融資産と異なり、不動産は分割しにくい財産の典型といえます。
 地価の高い都市部などでは、相続財産に占める不動産の割合が大きくなるケースが多く、そのようなケースでは、遺産相続をめぐってトラブルになりやすい傾向があります。


家族関係が複雑

CASE 2

 家族関係が複雑で、疎遠になっている相続人がいるケースも要注意です。

 事例を見てみましょう。

ケーススタディ

 Aさんの父には離婚歴があり、先妻との間に子どもがいます。Aさんは後妻の子となります。Aさんは父の先妻の子とは会ったことがなく、連絡先も知りません。父親と先妻の関係は離婚した時点で法律上は他人となりますが、父親と先妻の子供は、法律上の親子関係は変わりません。このため、Aさんの父親に相続が発生すると、先妻の子供も法定相続人(=相続する権利がある人)になります。


 遺産分割手続には先妻の子にも参加してもらう必要があります。Aさんやのその母親(=後妻)、Aさんに兄弟姉妹がいれば彼らのみで遺産分割協議はできません。

 この場合、現実的に考えて連絡を取ること自体が難しい可能性があります。仮に連絡が取れたとしても、遠方に居住していて今まで特に縁が無ければいればスムーズに意思疎通ができない可能性やトラブルが考えられます。

子のいない夫婦

CASE 3

 子のいない夫婦で夫が他界した場合、妻だけが法定相続人になると勘違いされていらっしゃいませんか?
 しかし実際は夫が他界した時点で、夫の親が健在なら親が、親が亡くなっている場合は夫の兄弟姉妹が、兄弟姉妹が亡くなっていればその子(甥、姪)が法定相続人となります。

 遺産分割協議には思ったよりも登場人物が多く、感情的な部分だけでなく明確に被相続財産が分割可能でない場合、長期的に揉めたり相続税申告期限を過ぎてしまうかもしれません。

解決策は?

 特にケース1に対する対策として、不動産の活用はこれまでも相続税対策として活用されることが多かったですが、基礎控除額が縮小されたことにより、これまで以上に相続税を抑えるための節税法が注目を集めています。


 また、相続税対象外であっても財産分与しやすい形で代償分割(=法定相続分を超えて相続した相続人が、他の相続人に対して超過分を現金で交付すること)や現金化により、「争族」にならない対策が必要でしょう。

 具体的には、マンションの購入やリースバックなどの活用が考えらます。以下では不動産を活用した代表的な相続税対策について紹介します。

不動産を活用した相続税対策とは?

 「不動産を活用した相続税対策」とは具体的にはどのようなものでしょうか。

相続税の算出方法

 不動産は、相続時には相続税路線価を用いて土地評価額を算出しますが、相続税路線価は実勢価格の80%程度を目安に設定されます。
 これにより、不動産を購入することで課税対象となる相続財産の評価総額を減らせます。例えば、現金1億円を払って売買価格1億円の物件を取得して、その後に相続が発生した場合、相続時の不動産評価はその80%の8,000万円程度を目安に算出されるのです。

 不動産を活用した相続税対策はいくつかあります。ここからは具体的な活用法について解説していきます。

不動産を活用した相続(税)対策の4つの例

いわゆる土地活用

 所有している土地に賃貸マンションなど収益不動産を建築し、賃貸不動産にすることで相続税対策とすることができます。

 土地や現金として保有している状態より相続税評価額が低くなります。また、貸したほうが自宅として保有するよりも土地や建物の評価額は低くなりやすくなります。

マンションの購入

 ワンルームマンションやタワーマンションの購入は、土地の持分割合(=マンションの場合は居住者で持分を共有)が少ないため相続税評価額が低くなりやすくなります。
特に人気エリアや駅直結物件など人気のあるマンションの場合、時価と課税評価額の差が大きくその効果が高くなります。

売却・リースバック

 相続税対策にこだわりすぎず、持っている不動産を売却することで別の問題が勃発する可能性を避けられます。持ち家を売却すれば現金として保管可能です。

 また、リースバックも1つの方法です。近年知られるようになってきている手法ですが、業者に自宅を売却して資金を得つつ、賃貸住宅としてそのまま家に住み続けられる方法です。

 いずれの方法もまとまった現金となりますので、財産が明確化されます。それにより、協議しやすくなり争うような事柄も少なくなります。

相続時精算課税制度の利用

 相続時精算課税制度は、60歳以上の祖父母や父母から20歳以上の子や孫へ生前贈与された財産のうち、2,500万円以内ならば贈与税が非課税になるという制度です。
相続時精算課税制度は、毎年110万円の基礎控除がつく贈与税の暦年課税と選択します。(一度相続時精算課税制度を選択するとその当人に対しては変更できません)

※ 図表は国税庁HPより

他にも法人設立や家族信託、保険の活用など相続対策はたくさん考えられますが、主に不動産を活用したよくある事例としては上記の方法が考えられます。

不動産を活用した相続税対策は節税効果が大きく有効な手段です。ただし、リスクが全くないわけではありません。

想定されるリスクの例

■ 購入費用や手続き費用がかかる
 マンションの購入等には当然購入費用がかかります。つまり、そもそも資金的にある程度余裕がなければ本末転倒となります。また、例えば売却等においても手続き費用がかかってきます。購入してまで相続税対策をする必要があるのか、一度シュミレーションしましょう。

■ 市場の変化
 特に賃貸住宅を建築する場合ですが、全国的に人口減少となっており空室が発生するリスクはあります。建築費を確保するために、借入をするなど相続対策のために無理をしても、結果的に相場が下落すれば空室リスクだけでなく賃料低下のリスクも抱えることになります。また、借入した場合これ以上金利が極端に低下するとは考えられないため、今後金利上昇も考慮すべきリスクとなるでしょう。

 特に郊外や地方は下落が予測されますので、割り切って早期に売却してしまうのも一つの手段でしょう。

■ 維持費用がかかる
 不動産の特徴としては、維持費用がかかることです。

 新築で建築したとしても、オーナーとして建物維持費用が必要となってきます。さらに、最近多い自然災害、あるいは家賃滞納のリスクがつきまといます。節約効果<維持費用であれば、そもそも意味が無いことになります。

 他にも、例えば不動産を購入した場合は相続する際に分割や納税資金の準備で追われることになりますので、対応策を講じておく必要があります。

まずは信頼のできる不動産会社に相談する

 色々な側面から不動産を活用した相続(税)対策に関しては、経験豊富で信頼できる不動産会社からアドバイスを受けるようにしましょう。

 相続に関しては、様々なケースがありそれぞれ事情が異なります単純にケースに当てはめれば解決するわけではありませんので、親身になってくれる不動産会社や専門家に相談してみることをおすすめします。さらに、不動産を売却する場合も見据えて、売却の流れについて把握しておくと良いでしょう。